NHPの未来を拓くパートナーシップ――伴走型ベンチャーキャピタル、インスパイア藤本学氏インタビュー

2024年10月、日本ハイドロパウテック株式会社(NHP)は、新規事業開発やベンチャー投資・成長支援を行う株式会社インスパイアのグループ会社:インスパイア・インベストメントが運用する『INSPiRE Mutualistic Symbiosis Fund 1投資事業有限責任組合(IMSF)』から4億円の出資を受け、新たな成長フェーズへと踏み出しました。
この出資にあわせて、インスパイアの藤本学氏がNHPの社外取締役に就任。
パートナーとしてNHPのどこに価値や強みを感じ、どんな未来を描いているのか、NHPの可能性について、藤本氏にお話をうかがいました。


株式会社インスパイア
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日本ハイドロパウテック株式会社


熊澤:まずは、インスパイアという会社についてご紹介ください。

藤本様:インスパイアは2000年の創業以来、出資を起点にパートナー企業と事業を共創してきた会社であり、共同事業やJVの立ち上げ、海外展開などの事業開発を通じて中長期的な成長に伴走しています。

熊澤:具体的にはどのような事業を支援されているのでしょう。

藤本様:インスパイアでは、2012年頃から、日本企業の海外における新規事業の推進を後押しする取り組みの検討を始めました。出資を通じて企業と共にゼロイチの事業を立ち上げることを目指し、成長資金の拠出のみならず、戦略立案やネットワーク構築、営業活動等、実際の行動を伴いながら、現場市場のニーズに基づいて課題解決の方向性を共に描いていくスタイルを重視しています。

日本の企業が培ってきた製造技術や運用ノウハウ、人材などの有形・無形資産の価値を海外の成長市場に届ける仕組みを構築すべく検討を進める中で、東南アジアおよびグローバルなハラール市場における人口増加と消費市場としての成長性に着目しました。そのエントリーマーケットとしてマレーシアを位置づけ、同国への進出支援を起点に東南アジア市場への展開を図ることとしました。

この取り組みを加速するため、中小企業基盤整備機構の制度を活用して50億円規模のファンド『PNB-INSPiRE Ethical Fund1』を組成し、マレーシアの政府系投資機関と共同で運用してきました。ハラール市場への参入をきっかけに現地パートナーと連携し、ファンド出資を通じた新規事業開発を実現してきたという経緯があります。

熊澤:私たちNHPとの出会いについて、お話しいただけますか。

藤本様:私たちが運用するファンドは10年満期のもので、2021年頃には7年目に差し掛かっていました。
コロナ禍の影響で事業の立ち上がりが遅れたこともあり、「この東南アジアでの取り組みを10年だけで終わらせるのはもったいない」という声が社内で上がり、そこで、実質の第2号となる新しいファンドを立ち上げようという動きが始まりました。

新ファンドであるIMSFは農林水産省の仕組みを活用し、2022年に設立したもので、規模も倍の100億円となりました。国としての支援や全国の地方銀行との連携を通じて、各地域の優良企業の東南アジアをはじめ、グローバルな海外進出を支援する体制を強化したファンドです。
その投資活動の中で、すでにNHPに出資していた奈良県の南都キャピタルパートナーズさんから、南都銀行さんを通じて「非常に面白い会社があるので、一度会ってみてほしい」とご紹介いただいたのが、NHPとの最初の出会いでした。

熊澤:NHPの最初の印象はいかがでしたか?

藤本様:正直、最初はホームページを見ても技術的には分からない部分も多かったのですが、海外市場に対して「日本の完成品をそのまま輸出する」だけでなく、「現地で製造し、現地のマス消費者にMade By JAPANの商品やサービスを届ける」という二つの方法で海外展開を考えたとき、NHPさんの技術や仕組みは、その両方をうまく融合し昇華できる可能性があると『直感的』に感じました。

熊澤:そうだったのですね。

藤本様:はい。また、シンガポールに出張していた時に、NHPさんが「ANY1 CHOCO」という店舗を現地で展開していると聞き、実際にお店に行ってみました。
そこでまず、商品がとても美味しくて! しかも、店舗の空間全体からも、ブランドが大切にしている世界観がしっかりと伝わってきました。NHPは、単に技術を持っているだけではなく、その技術を「どうやって人に届けるか」ということまで深く考え、細部にまで心を配って事業を展開している――その姿勢が強く印象に残っています。 

その時、ANY1 CHOCOのロゴがかわいかったのでTシャツも買い、今日も着ているんですが(笑) 長岡にもそのTシャツを着て訪問したことが、個人的にも思い出深いです。

熊澤:まさしく!「ANY1 CHOCO」のお店を始めたのは、まさにこうした出会いを求めていたからです。もしかしたら、日本にはなかなか届かないかもしれませんが、現地の誰かには届くかもしれないと思ってやっていたわけで、気づいていただいてありがとうございます。

藤本様:これは、本当にご縁だなと思います。

ANY1 CHOCO シンガポール店内

熊澤:そうですね。ご縁ですね。先ほど、『直感的』にNHPに可能性があると感じていただいた点をもう少しおうかがいしてもいいですか?

藤本様:はい。私たちは農林水産省からの出資を受けたファンドを運営しており、輸出拡大をはじめ、日本発<食>のバリューチェーンを世界に向けて広げていくさまざまなミッションに取り組んでいます。日本で作られた食品の完成品輸出では、ハラール認証が取れていない商品がまだ多かったり、国内外で使用できる原料規制に違いがあったりと、多文化な現地消費者の方々が不安を感じるケースがありました。また、ハラール認証をとれた商品であっても、生産コストや輸送コストを考えると価格面でメリットが出ず、現地のマス層には浸透せず安定的にスケールしにくいというのが現状です。

一方で、日本のものづくりの強みである品質管理や安定した生産ノウハウを生かし、現地生産にも積極的に取り組んできましたが、ローカライズが進むにつれ「Made by JAPAN」の良さが徐々にぼやけてしまうことも経験してきました。何をもってその商品が選ばれているのか――価格や美味しさ、安心安全だけでなく、日本らしさや価値をどう伝えるかという課題にも直面していました。

熊澤:私自身も30年以上、製造業の現場で国際競争を経験してきたので、同じことを実感しています。

藤本様:そうですよね。そんな課題があった中で、NHPが持つ「無菌化」や「粉末化」などの技術は長距離輸送を可能にし、輸送効率や衛生管理面の安定化を実現してくれるので、これまで海外で広く取り扱うことが難しかった日本の原料や商品の利用可能性を広げてくれるものだと考えています。
例えば北海道産や新潟県産など、日本の産地ブランドを生かした「Made in JAPAN」の加工原料を海外市場でもしっかりと伝えていくことが、農林水産省のミッションである日本の輸出拡大にもつながりますし、これまでにない新しいかたちで日本の価値を世界に届けるきっかけになると期待しています。NHPには、そうした新しい可能性を感じていますし、「こんなことができたら面白い」と思える、さまざまな商品開発につながる技術だと感じました。

熊澤:私が思っていた『直感的』よりも、解像度が高くてびっくりしました。

藤本様:ぼわ~~としていた感覚を、熊澤さんと検証していって言葉で表現できるようになっていったという感じですね。

熊澤:ありがとうございます。『直感的』に感じていただいたものが、今、実際にさまざまな製品につながっていますね。藤本さんは特にNHPのどのような製品に注目していますか?

藤本様:はい。たくさんの注目するべき製品がありますが、例えば「求肥(ぎゅうひ)モジュール」は、そのひとつだと思います。近年、「餅」や「求肥」、「大福」は日本らしさをアピールしつつ世界でも受け入れられる食品として海外でも非常に人気が高く、私が携わっている食品メーカーでも、東南アジアで餅や求肥を使ったさまざまなデザートを製造・販売しています。ただ、製造現場では、食感を残しつつ求肥が硬くならないようにする工夫や、製造設備の洗浄の手間など、さまざまな課題がありました。そんな中、NHPが開発した「求肥モジュール」は、国産のお米を使った高品質な「調理済み」生地を粉体で効率よく常温輸送でき、現地で水を加えて練るだけで美味しい求肥を製造することができるという、革新的なものです。海外現地の生産現場にとっては特に大きな価値を持つソリューションだと感じています。

東南アジアでは全般的に人材の流動性が非常に高く、スタッフの製造業ノウハウが向上しても、転職によって会社に無形資産が蓄積しづらいという課題があります。NHPのモジュールは、現地経営においてレシピやノウハウを保持しつつ、簡単に、かつ安定的に美味しいものを再現していく仕組みであり、製造工場の課題を改善できる、海外展開においては特に大きな差別化要素になると考えています。

熊澤:まさしく、モジュール化によって人材の流動性やノウハウの継承など、さまざまな課題が解決できると考え、製品化しました。今後も、さまざまなモジュール製品を考えています。モジュール製品を推進するにあたり、アジア市場の動きをうかがえますか?

藤本様:アジア市場、特に東南アジアで事業を開発してきた中で強く感じるのは、「国」単位ではなく「都市」単位で市場を見ることの重要性です。これまではマレーシアならクアラルンプール、タイならバンコク、ベトナムならホーチミンといった主要都市が中心でしたが、今では第2、第3の都市にも経済成長が広がり、現地の消費や流通の形も多様化しています。実際、物流やモダントレード、つまりスーパーマーケットやコンビニなどの近代的な流通網の発展によって、こうした都市ごとの成長がリアルにビジネスチャンスにつながっています。

熊澤:そのように拡大する東南アジア市場は、NHPとして間違いなく今後も最も重要な市場と考えています。

藤本様:はい。まず前提として、Made in JAPAN / Made by JAPANといった日本発の価値を現地の消費者に届けていく取り組みは続けつつ、より広い視野で展開していくことが重要だと考えています。その具体的な一歩が、まさにタイにNHPの工場を作っていくという計画です。
タイでは、NHPの独自技術に裏打ちされたものづくりを土台にしながら、日本ならではの感性を生かした商品を世界向けに設計していきます。これは、東南アジアという一大消費市場のポテンシャルを最大限に引き出すと同時に、日本国内では調達が難しい希少原料や価格が高騰している原料を現地で探索し、活用していくことにもつながります。NHPの技術は、原料調達から加工・商品化までを一気通貫で設計できるものであり、“食品の産業革命”を起こしうるポテンシャルがあると感じています。

だからこそ、この日本発の価値をより広いマーケットに届けていくためには、その生産を担える現地工場を東南アジアに持つことが重要になります。NHPの技術であれば、日本でも東南アジアでも同じ品質でつくることができ、タイの新工場はグローバルに供給していくための中核拠点になると考えています。こうした取り組みは、単に東南アジアという7億人の市場に向けて商品を販売していくだけでなく、現地でつくった商品を世界各国に展開していくための足場づくりでもあり、そこからさらに大きな可能性が広がっていくと期待しています。

熊澤:ありがとうございます。アジアを通じて、NHPも世界を見据えることが大切だと考えています。

藤本様:来年からは米国市場にも挑戦するとうかがっており、「ANY1」ブランドを通じてNHPの技術とビジョンを世界に伝えていくうえで、まさに絶好のタイミングだと私も感じています。
海外市場でキープレーヤーが集まる場に積極的に参加して存在感を高めつつ、生産拠点をタイに構え、戦略的に生産のキャパシティをコントロールしていくことを並行して進めることが、これから一段と重要になってきますね。

熊澤:まさにその通りですね。今までのお話から藤本さんのお話は、ベンチャーキャピタルの枠を超えて、実際に「モノを作って売る」「原料を仕入れてビジネスを動かす」といった現場のリアルなビジネスを分かって、語っていただいていると感じます。

ところで、NHPとの関わりについて、藤本さんご自身としての思いについて、うかがってもよいでしょうか?

藤本様:インスパイアではファミリーオーナーシップを持つ日本の地域企業の海外新規事業の立ち上げに、合弁による新会社への出資というかたちで関わることが多いのですが、単なる資金提供にとどまらず、当該企業の新規海外事業の責任者の一人として一緒に事業を動かしていく、そんなスタイルでやっています。

投資家としての期待リターンとは別に、投資を受ける側の事業者のみなさまにも、「なぜインスパイアが必要なのか」という意義を感じ取ってもらえないといけないと思っています。NHPも同じで、出会ってすぐに熊澤さんとマレーシアに出張したり、出資前からシナジーを意識した事業開発に取り組ませていただいております。インスパイアグループが運営するファンドを中心とした国内外の出資先や取引先の経営層と連携し、事業をスピーディーに創出していく活動を行ってきました。こうした活動を通じて、「インスパイアと組むと新しい事業が生まれる」「人材やノウハウなどの足りていないリソースを補ってもらえる」と感じてもらえるような実績を積み重ねることを意識しています。

NHPの場合は、IMSFから出資する以前から、ロッテなどさまざまな企業から出資を受けている中で、私はNHPの社外取締役に就任しております。事業開発に加え、将来を見据えた資金調達や資本政策などについてもNHPのCFOと議論を重ねながら、社内外のステークホルダーに納得していただけるような社外取締役の役割を果たしていけるように、取り組んでいるところです。

熊澤:いつもありがとうございます。さまざまな企業と関わりがある藤本さんだからこその視点に助けられています。藤本さんの視点から見て、今後NHPの事業の課題となるところはどんなところでしょうか。

藤本様:世界展開していくうえで、組織を強化していくこと、キー人材を確保していくことが大事だと思います。

熊澤:近年、日本ではNHPのような製造業で特に人材確保が課題です。

藤本様:そうですね。日本ではこれまで、地域ごとに国内の顧客に向けてモノを作り、売り、収益を得て、給料や固定費を払い、少しでも利益を残して地域に還元するという循環を築いてきました。その中で、地域の雇用を守り、働く人を尊重し、国内で培ってきた技術を大切にするという文化が根づいてきたと思います。
一方で、こうした仕組みが今後も同じかたちで続けられるわけではない、という認識は広がりつつあるものの、既存の経営層の多くはなお、その前提に強く依拠している側面も散見されます。世界における日本の立ち位置の変化を十分に実感しきれないまま、「まずは国内市場や既存商品の輸出だけで何とかなる」と考えざるを得ない構造が残っている、というのが現在の状況ではないでしょうか。

熊澤:まさに。

藤本様:一方で、若い世代の方々の中には、そういった閉塞的な構造をなんとか変えたいという思いを持ちながら、具体的な一歩をどう踏み出せばよいか模索しているケースも多いと感じています。私たちインスパイアは、そうした問題意識を共有する企業の経営層や次世代リーダーの皆さんと一緒に、新会社設立などを通じて、長期的な目線で成長市場への展開に取り組む実績と新しいチャレンジの文化づくりを進めてきました。

その事例では、親会社とは切り離した独立予算・独立経営体制を敷き、次期経営層となる若手がトップに立ち、現地で事業を推進しています。こうした取り組みは、若い経営層が海外での成功体験を積み、それを既存の経営層と共有しながら、これまでとは違うスピード感で組織を変えていくきっかけになると感じています。また、海外市場に向けた子会社を新設するという動きは、採用活動にもプラスに働いています。実際に、新卒採用では「海外でチャレンジしたい」という声……特に女性からの希望が増えるなどの成果にもつながっています。日本の地方大学では、学生が留学生と交流し、異文化に触れる機会は増えている一方で、地元で海外事業に積極的に関われる企業はまだ多くありません。そうした企業が地域に増えていくことは、若い世代のキャリアの選択肢を広げると同時に、地域活性化にもつながると考えています。

熊澤:そうですね。事業のスピード感で言ったら、NHPは他の企業より倍のスピードで進んでいっていますね(笑)

藤本様:今後は海外での発信機会を増やしていく活動の中でNHPの魅力を伝え、国内外の人材を惹きつけ、採用していくことが、NHPのさらなる中期成長につながっていくのだろうと感じています。

熊澤:最後になりますが、10年後どんなふうになっているか、NHPとの取り組みの未来像をお聞かせください。

藤本様:まず、投資家として、IPOによる上場の実現をひとつの中期的な目標とし、そこまでの道筋を事業戦略と丁寧に結びつけて描いていく必要があります。これまでお話ししてきた海外におけるNHPの展望を、実際の事業として具体化し、収益性と持続性のあるビジネスモデルとして確立していくことが、結果として社内外のステークホルダーにきちんと報いることにつながると考えています。

IMSFの満期は2032年であり、ファンド期間の中で出資者の期待に応えるリターンを実現しつつ、会社対会社という関係性の中でNHPの事業成長にコミットしていくことが、私の役割です。
同時に、私はNHPとの仕事を心から楽しんでおり、投資家と投資先という関係を超えて、どのような立場であっても、「藤本さんと一緒に仕事がしたい」と思ってもらえる存在であり続けたいなと考えています。

熊澤:10年スパンで捉えますと、私もその頃には62歳になります。
そのときも藤本さんとより良い仕事をしつつ、藤本さんのご趣味である音楽を一緒に楽しめる体力は維持したいと思っています。

藤本様:間違いないですね。NHPの事業と熊澤さんと僕との共通点とかけます、というお題があれば、その心は「ROCK(ロック)すること」が答えになります。NHPの事業も、熊澤さんの人生も、いい意味で常識に揺さぶりをかけ、ROCKしていると思います。

熊澤:既存のものがしっかり根付いているからこそROCKはROCKたり得る。NHPの新しい技術もROCKするには、今の常識に対して分かりやすく、使いやすく、メリットが認識される段階が必要だと感じています。

藤本様:まさにそうですよね。

熊澤:本日は、ありがとうございました。

対談後、笑顔で一枚

(聞き手:NHP 熊澤)


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