カカオハスクのアップサイクル・チョコレートを製品化。株式会社ロッテ・五十嵐拓磨様にお話をお聞きしました。

ロッテ様の「もったいな~い!なコアラのマーチ・まるごとカカオ豆」は、一般的には捨てられてしまうカカオ豆の皮の部分、「カカオハスク」をNHPの加水分解技術でアップサイクルし、ビスケットやチョコレートの部分においしく活用した未来志向のお菓子です。
今回は、「もったいな~い!なコアラのマーチ」の商品開発やこの商品に使われたカカオのふるさと、パプアニューギニアの農園での研究も担当されている、五十嵐様にお話をうかがいました。


株式会社ロッテ 中央研究所 様
埼玉県さいたま市


熊澤:今回、NHPも関わらせていただいた「もったいな~い!なコアラのマーチ・まるごとカカオ豆」で使われたカカオハスクは、ロッテ様がパプアニューギニアに開いたカカオ研究農園で栽培されたものと聞いております。五十嵐様には、産地のパプアニューギニアの農園についてなど、様々なお話をおうかがいしたいと思います。

五十嵐様:パプアニューギニアは、オーストラリアの北、インドネシアの東、赤道直下に位置する南太平洋の国で、カカオの原産地のひとつです。ロッテは住友林業様と共同プロジェクトで、2016年からパプアニューギニアに研究農園を設けています。何もない土地から始めて、全18品種のカカオを植え、生育の様子や発酵・乾燥によるチョコレートの味の違いを継続して研究しています。

熊澤:何もない土地を切り開いて苗を植え、実がなるまでケアするというのは、日本で暮らす私たちには想像できない自然環境の厳しさがあったと思います。実際、どれほど過酷だったのでしょうか。

もったいな~い!なコアラのマーチ・まるごとカカオ豆

五十嵐様:もともと住友林業様が開発していた土地ということで、私たちがやっていくのに最低限の設備はありましたが、現地では水道・ガス・電気といったインフラが十分には整っていませんでした。水は雨水を沸かして使い、現地の方々は焚き火で調理しています。我々の使う電気は住友林業様の設備で昼間と夜の一部だけ自家発電で供給され、以前は夜9時には完全に消灯。朝6時までは電気が使えない環境でした。

熊澤:星が綺麗そうですね。

五十嵐様:生まれて初めて天の川を見ました。蛍もあちこちに舞っています。

熊澤:その環境に、どれくらい滞在されていたのですか。

五十嵐様:立ち上げ時は1回の出張が約1ヶ月で、年に3〜4回。年間の約3分の1は現地にいました。

熊澤:現地語の挨拶などは、少し話されるのでしょうか。

五十嵐様:イギリス領だったことから英語をベースにした共通語が使われていて、「こんにちは」は「アビヌーン」、「ありがとう」は「テンキュー」と言います。800以上の部族語がある中で、なるべく多くの人が使えるように工夫されています。

熊澤:もともと現地の方々は、カカオ豆を食べたり育てたりしていたのでしょうか。

五十嵐様:自己消費のために育てている人はほとんどいません。一部、先進国向けに栽培している地域はありますが、基本的には換金作物として扱われています。

熊澤:今回の「もったいな~い!なコアラのマーチ」では、五十嵐様が、そんなパプアニューギニアで育てたカカオ豆の……一般的には捨てられていた皮、カカオハスクをNHPの技術で加水分解処理してパウダー状にし、チョコレートとビスケット部分に活用することで、おいしくアップサイクルされています。「まるごとカカオ豆」と商品パッケージにも表記されていますが、こうした製品作りで、弊社の加水分解技術でアップサイクルされたカカオハスクがどのように活かされたのでしょうか。

五十嵐様:そもそもカカオハスクというのは、カカオ豆の皮で、通常、取り除いてチョコレートにします。が、実はカカオにとって重要な発酵という過程は、豆の外側で起こります。発酵によりいい香りの成分が豆の中に浸透し、風味が良くなる。ハスクにもその香りが残っているので前から使用も考えていましたが、発酵による菌が残っていたり、硬くて微粉化の難しさがずっと課題でした。それをNHPの加水分解技術によって、今回ブレークスルーできたのです。

熊澤:どのような効果が得られましたか?

五十嵐様:まず、加水分解により、味気なかったハスクが、風味豊かでコクのある甘さに変化し、 “おいしさ”がしっかり感じられる素材になりました。
さらに、チョコレート作りに使われるカカオは細かな粒子であることが非常に重要なのですが、加水分解後に乾燥粉砕機を通すことで、粒子を細かいパウダーに仕上げることができ、滑らかな食感のチョコレートが完成しました。まさにチョコレートのためのパウダーが完成したと思っています。また芽胞菌(がほうきん)というしぶとい菌も、しっかり死滅させることができ、食の安全性を担保できました。

※芽胞菌:熱や乾燥に強く、通常の加熱では死滅しにくい菌のこと

熊澤:私も食品業界は長いですが、流通菓子でカカオハスクを可食化した例はこの他に知りません。ロッテ様は、SDGsの取り組みを意識しておられると思います。NHPとはベトナムでカカオポッドについて他の機関とも交えて共同研究も進んでおりますが、今後、このカカオハスクパウダーをどのように展開される予定でしょうか。

五十嵐様:お菓子メーカーとして、本業での活用が最優先です。「もったいな~い!なコアラのマーチ」を皮切りに、他のチョコレート製品にもこのカカオハスクパウダーを広げていけたらと考えています。ロッテでは、アップサイクルの試みとして、これまで様々なことを行っていまして、実は今着けているネクタイもカカオハスクで染めたものなんです。パジャマの染色にも使ったことがあります。が、やはりお客様にとって馴染み深いのはお菓子ですから、ロッテがアップサイクルという取り組みをしています、ということだけではなく、カカオハスクのおかげでチョコがよりおいしくコク深くなったという、お客様にとってプラスアルファとなる価値を届けながら、アップサイクルの意義も伝えていきたいと考えています。

加水分解技術によって作られたカカオハスクパウダー

熊澤:アップサイクルは楽しく有効活用することが大切ですね。今後、ロッテ様で他に活用していきたい素材はありますか。

五十嵐様:やはり、チョコレート目線で考えるとカカオポッドですね。カカオポッドはカカオの実そのもののことで、カカオの約8割を占める部分ですが、当社の場合、現在は肥料などとして使っており、本当はもっと幅広く活用したいと考えています。というのも、産地の農家様の収入は、豆の部分だけでは安定しません。今のように価格が高騰すると消費国でも消費が難しくなるという悪循環が生まれます。それなら、今まで価値を生み出せなかったカカオポッドなどの部分にも新たな価値を見出し、産地にも還元していきたいし、消費者も喜ぶような取り組みを行いたいと考えています。

カカオの実(カカオポッド)。中に詰まったカカオ豆は白いカカオパルプに包まれている

熊澤:さすが、チョコレートのリーディングカンパニー、ロッテ様ですね。食べる楽しみと責任を両立させ、アップサイクルというプロジェクトに取り組まれていることが分かりました。最後に、現在はどれくらいのペースでパプアニューギニアに行かれているのでしょうか。

五十嵐様:年に1〜2回ほどです。

熊澤:今、カカオ豆は世界的に不作という話も聞きますが、パプアニューギニアのロッテ様のカカオの様子はいかがでしたか?

五十嵐様:パプアニューギニアは非常に順調です。だからこそ、今後もどんどん、この取り組みをやっていきたいなと考えています。

熊澤:カカオたちも、五十嵐様が帰ってくるのを待っているかもしれませんね。

五十嵐様:そう思ってもらえると嬉しいです。

熊澤:本日は貴重なお話、ありがとうございました。

対談後、笑顔で一枚

(聞き手:NHP 熊澤)


株式会社ロッテ
菓子、アイスクリーム、健康食品、雑貨の製造および販売。
昭和23年創業。