NHP 代表取締役 熊澤正純へのロングインタビュー

日本ハイドロパウテック株式会社を率いる代表取締役 熊澤正純へのロングインタビュー。同社の加水分解製造の独自技術とノウハウ、そして、見据える未来について、その可能性に迫ります。(聞き手:岡部 修三)

──今日は、改めて、NHPの加水分解技術について詳しくお話を伺いたいと思います。NHPについて興味を持って頂いた方々に、その可能性を感じてもらえるような内容にできればと考えています。早速ですが、NHPの加水分解技術について、初めての方に伝えるイメージで一から掘り下げていきましょう。

ありがとうございます。少し科学的な話になるかもしれませんが、ぜひお付き合いください。私たちNHPの加水分解技術は、有機物、つまり生きとし生けるものを形成する様々な成分を、非常に効率的に、劇的に早く分解する技術と言えます。世の中の生き物は、分子がつながることで成長し、それらが離れることで、死んでいく。そう言った分子レベルの分解を可能にする技術です。

──なるほど。そうした加水分解の技術を食品へ応用するノウハウを持っている、というところがNHPの独自性の一つと考えて良いですか?

まさに。食品と人間の関係においては、消化・分解されるとき、分子が細かくなって体に吸収されていきます。私たちの技術は、まさにその分解を助け、栄養素を体に吸収しやすい形にするものとも言えます。この、加水分解というのは太古からさまざまな形で生活に取り入れられてきました。それは、微生物に分解を助けてもらうようなものから、酸などを使った化学的なものまでさまざまです。ただ、これにはそれぞれ課題がありました。前者は、時間がかかりすぎること、後者は分解の際に思わぬ副作用を生んでしまうことです。一方、私たちの技術はどちらとも異なり、熱と剪断、それに場合によって酵素を加える独自の手法で、従来の方法に比べて、画期的に早く、安全だと言えます。

──面白いですね。人類が様々な工夫を重ねてきた、加水分解を進化させたようなイメージで理解すると良さそうです。そうした技術によって加水分解することは、具体的にどのような形で、私たちの生活に役に立つのでしょうか?

例えば、「米」を例にすると、米にはデンプンと呼ばれる高分子成分が含まれています。これを小さな分子に分解することで、甘酒や米飴のような、消化しやすくて体に吸収されやすい成分に変えることができます。そうすることで、消化機能が未熟な小さな子どもや消化が衰えている高齢者の方でも負担なく栄養が摂れるようになります。
また、私たちの加水分解技術では、分解プロセスで熱や圧力の剪断を使って食品を無菌化することが可能です。一般の細菌はもちろん、耐熱性の細菌にも対応できるので、より安心して食べていただくことが可能になります。

──加水分解されたものは、消化・吸収しやすい、というのは非常に分かりやすいですね。他の可能性も聞かせていただけますか?

私たちの技術を使えば、食材の中で未利用の部分、例えば野菜の皮や魚の骨なども有効に活用できるようになります。大体、人類にとって食べることができるかできないかの分かれ目は「硬い、まずい、不衛生」だと考え、分子量を低下させることで味を感じやすくなります。そして、繰り返しになりますが、我々の技術は、熱と圧力の剪断で殺菌、無菌化するため、極めて衛生的です。つまり、この世の中の食べられなかったものを食べられるようになる。言い換えれば、食べられるはずだったけれど、捨てられていた部分を活用できることになると言えます。

──食べられる、食べられないと言う概念の捉え方が、非常に興味深いですね。

世界的に見れば、人口増加に伴って、食糧難が危惧されていると思います。そうした課題に対して、様々な取り組みがあり、中には、無理して食べられるものを生み出すようなアプローチも見られますが、そのようなアプローチの必要はないと感じます。素直に、すでにあるものを食べられるようにする方が圧倒的に合理的で、安全。実際、食べ物は、活かされていない部分が圧倒的に多い。これを有効化するのが我々の技術です。

──とても合理的でもありながら、同時に新しく聞こえます。少し脱線するかもしれませんが、熊澤さんにとって、食べるということはどのような意味を持ちますか?

人間にとって食べることは、まずは生命の維持にとって必要不可欠なことです。それが満たされ体の形成につながることは、人間にとって原始的な喜びだと思います。ただ、それ以上に私は、誰と食べるかが重要だと考えています。なぜ私がこの仕事をしているのか、と言うことにも関係しますが、その根底には周りに喜んでもらいたいと言う思いがあり、一緒に美味しいものを食べて人生を楽しみたい、心からそう思っています。

──理論と感覚、合理性と人間性、それらの共存する様子が非常に興味深いですね。先ほどの、食べられなかったものを食べられるようにする取り組みについて、イメージしやすい具体的な例で教えてもらえますか?

例えば日本人の主食と言われる米ですが、これは、玄米にしても、白米にしても、稲の種の部分だけを食べていると言えます。そう考えると、ほとんどの部分を捨てているとも言えます。私たちの視点では、稲全体を食べる工夫なんかは面白いと思っています。

──少し話は戻りますが、これまで何度か加水分解技術による時間短縮の話がありました。例えば、お米の分解を例に、それが従来の方法に比べてどのくらい早いのかイメージしたいのですが。

例えば、従来の方法の場合、お米を加水分解して、乾燥、粉砕するとすれば早くても大体1日くらいはかかると思います。それが、私たちの技術であれば、1秒くらいで乾燥、粉砕を同時に行える、そんなイメージだと思います。

──計算するまでもなく、天文学的な効率アップになりそうですね。

全ての人に対して時間は共通ですよね。そう考えると、時間短縮はあらゆる側面から正義だと思います。それは、エネルギー消費の削減にもつながりますね。

──一通りお話を伺って、ますます、なぜこれまでこういった進化が起こらなかったのか、そこが気になります。

まず、私はもともと、プラスチックの業界に長く携わってきました。その後ご縁あって、食品の技術に関わることになるのですが、その両方の技術に関わると言うこと自体がなかなか無い。それが、私の特異性につながっているのだと思います。

──なるほど、そういう偶然が重なり、そこに熊澤さんの好奇心も相まって、今の形になってきたことがよく分かりました。話をNHPの加水分解技術に戻したいのですが、この技術を通じてこの先実現したいことについて伺わせてください。

私は、世の中全体に興味があります。そして、そこで出会った様々な人の要望に答えたい、それが好奇心の根源です。私たちの技術は非常に普遍的ですが、それ自体には意味がないとも言えます。よって、さまざまな地域や文化に伺い、それらのニーズを受け取って問題を解決することが重要だと考えています。例えば、様々な趣向から動物性のものを摂りたくないという人、宗教的な思想から食べてはいけないものがある人、そうした実際に関わって理解しないと見えてこないニーズに興味があります。また、アレルギーの課題も大きいと思っています。究極大人はある程度我慢しても良いと思うのですが、子供は違いますよね。例えばお菓子が食べられないというのは、子供にとっては大きな問題です。そういう子供たちが楽しく食べられるものを提供したい、そんなことを考えています。

──お話を伺っていると、課題がどんなものであっても、一つ一つ見方を変えて工夫をしていくことで、変えていくことができる。そんな希望を感じることができます。

この技術は普遍的であるがゆえに、使い方を間違えると危険ですらあると言えます。既存の産業を壊してしまう可能性もあると思います。だからこそ、自分は、誰もやらないことをやるのが面白いと思っています。従来使えない、食べられない素材を有効活用する、というのはまさにそれで、昔からの様々な課題が解決していくような応用につながればと思います。そしておそらく、私の年齢を考えると、全てを完全に見届けることは難しい。だからというわけではないですが、この技術にはどんどん広がってほしい。

──様々な地域や組織と積極的に提携を進めているのは、そういった背景から来ているものでもあるんですね。

まさしく。時間短縮が可能で、環境負荷が少ない、安全安心な加水分解の技術は皆にとってメリットのはずです。求められれば、技術的なサポートも含めて積極的にノウハウを提供していきたいと思っています。
私たちが目指すのは「食」を通して生きることの楽しさ、豊かさを提供することです。そして、この喜びをできる限り多くの人が等しく享受できるような社会を作りたいと考えています。

──素晴らしい。その可能性の広がりに期待が膨らむばかりですが、この技術は、食品以外の分野にも当然応用できると理解しています。最後に、その可能性についても考えていることを教えてください。

これまで、全く違う分野とされていた化学と食品といった二つの分野の技術に関わる経験して、化学の技術を食品に活用することで新しい可能性がひらけてきました。次は、そこで得た知見をもう一度、化学の分野に戻すことを考え始めています。例えば、油を微粉化したものを活用した、粉体塗料や3Dプリンターの材料などがそれにあたります。

──非常に興味深いですね。先ほどの普遍的な技術だからこそ、どう活用していくかが重要、という話に集約されそうです。

技術が普遍的なものだからこそ、その時代やニーズに合わせて用途の多様性を求めていくことが重要になります。経済的な持続性を担保しながら、社会のニーズに応え続けていくような人を育てていかなければ、と常々考えています。そして、私自身「地球で生きることを楽しみつくす技術の探求」を可能な限り邁進したいと思います。