「ANY1 CHOCO」ブランド開発インタビュー (代表取締役:熊澤正純)

2024年3月、日本ハイドロパウテック株式会社は、独自の加水分解技術を用いた自社のチョコレートブランド「ANY1 CHOCO(エニワンチョコ)」の世界第一号店をシンガポールにオープンしました。
今回のジャーナルでは、日本ハイドロパウテック株式会社の代表取締役の熊澤正純に、事業立ち上げへの想いや店舗オープンの経緯について、インタビュー形式で聞きました。(聞き手:岡部 修三)

──なぜ新規事業に挑戦することになったのか、その経緯を聞かせてください。

自社ブランド立ち上げの理由は、第一に、我々日本ハイドロパウテックの事業価値を世界に広めるためです。当社の事業は、独自の加水分解技術とそれを用いた原料加工になりますが、「加水分解」という言葉ひとつとっても、理系文系を問わず、理解が難しいと考えています。
我々の加水分解技術は、食品産業に活かせば、美味しいものをより安全に美味しく衛生的に作れる。そして、食品加工にかかっていた時間を短縮もできる画期的な技術です。しかし、それをただ理論として説明しても、従来世界になかった新技術の話ですので、なかなか伝わりません。ですから、自分たちが実際に加水分解技術を使い、手に取れる、食べられる、本当に美味しい食品を創るということが重要だと考えました。

──日本ハイドロパウテックの持つ技術や可能性を消費者に提案するためのブランドということですね。では、なぜ食品の中でもチョコレートを選んだのか教えてください。

きっかけは、「ANY1 CHOCO」の開発にも顧問として関わっていただいた鈍寳(どんぼう)さんというチョコレートの専門家との出会いです。鈍寳さんとお話しする中で、子供たちの中にはアレルギーなど様々な理由でチョコレートを食べることを諦めている子がいるという問題を改めて認識しました。子供にとって、美味しいお菓子を楽しむことは非常に重要なことで、食べられないということは、思った以上に寂しいことだと考えました。また世界には、宗教上の理由や主義・信条から、乳製品や動物性のものを食べないという方もいる。
もちろん、すでに世界にはアレルギーに対応したチョコレートはあります。しかし、正直言って、あまり美味しくないものが多いと思っています。この状況を変えたいという思いから私たちはチョコレートを開発しました。世界にはいろんな人がいるけれど、だからこそ、同じように食べられる美味しいチョコレートがあったらいいのに、と。
しかし我々だけで、美味しいチョコレートはできません。そこで、鈍寳さん、そしてチョコレートづくり世界大会のチャンピオンである藤田さんにも参画していただき、試作を繰り返し、理想のチョコレートにたどり着きました。ぜひ広く皆さんに食べていただきたい、満足していただける味わいです。

──「ANY1 CHOCO(エニワンチョコ)」というブランド名は、どのような経緯で決定したのですか?

ブランド立ち上げの段階では様々な名前の候補があり、その中から、誰でも食べられる…かつ誰かの一番になるという意味で「ANY1」という名前に決めました。というのも、我々の技術はチョコレートだけの技術ではなく、広く食品に利用できる科学で、広い分野での応用が可能です。「ANY1 CHOCO」の次は、ANY1酒、ANY1ソース、さらにはANY1ミートなど、様々な製品を作っていくかもしれない。ANY1の後にいろんな用途やアプリケーションをつければ、すべてANY1なんとか。つまり誰でも利用できる、誰かにとって一番の商品になる。そんなブランドネームだと思ったのです。

──実際ブランドを立ち上げ、シンガポールに世界1号店を作ったわけですが、オープンしたお店の印象はいかがでしょう。

オープンして私自身、「ANY1 CHOCO」のアイスとドリンクを注文して食べてみました。手前味噌になりますが、本当に美味しく仕上がっていて、びっくりしました。

──植物性のものだけで作ったというこだわりを超えた、深みのある味わいですよね。今日、ブランドの立ち上げと同時に店舗をオープンさせましたが、印象はいかがでしょう。

お店のドアを開ける瞬間、ワクワクが止まりませんでした。自分は音楽が好きなのですが、こだわりのレコードショップのような雰囲気もあり、並んだ商品はジャケ買いしたくなるような、おしゃれなデザインです。
改めて考えてみると「美味しい」という感覚には、環境や雰囲気がすごく重要な役割を果たします。例えば、お鍋は家族や親しい友人と食べるといっそう美味しいですよね。チョコレートの場合、家庭で食べるにしても、やはり高級感やオーラをまとった商品でありたいと考えます。「ANY1 CHOCO」シンガポール店には押し付けがましくない高級感があり、人それぞれが趣味を楽しむ、例えばレコード収集のために商品を選ぶような、そういう楽しい空気も感じさせるお店です。

ANY1 CHOCO シンガポール店(Photo: ambiguous Yusuke Hattori)

──世界第1号店の出店先として、シンガポールを選んだのは、なぜですか?

シンガポールが多民族国家だからです。様々な価値観の方、宗教や信条、体質、アレルギーなど、様々な違いを持つ方が多い場所というのが絶対条件でした。
また、多民族国家は世界にたくさんありますが、シンガポールは人口密度が高い。面積が小さく、国中が市街地の都市国家ですから、常に誰かがお店や商品を見つけてくれるという安心感があり、メッセージを伝えれば必ず響く人がいるはずです。お店やその商品が、誰にとっても日常生活のすぐ近くにあることが大切だと考えました。

──シンガポールの中でも、このTELOK AYERという地域を選んだ理由を聞かせてください。

もし、ただチョコレートだけを売りたいだけなら、シンガポールでも有名な観光ストリート、ORCHARD ROADとか、百貨店出店も選択肢の一つでした。しかし、それでは休日観光地に遊びに行くような、レジャーの一環になってしまいます。「ANY1 CHOCO」は、もっと身近な存在として楽しんでほしいという想いがありました。その点、ここはオフィス街の近隣ですので仕事の休憩の際、ちょっとアイスクリームやドリンクを楽しんでもらえます。この店舗を、みんながリラックスして食べられる場所にしたいと考えています。
また、TELOK AYERは、元々南インドから来られたインド人の方が最初に住み着いた場所だそうです。そのため近くにインドのお寺があり、中国のお寺もあり、古い町並みがオフィス街にも関わらず残っている地域です。新旧の人と人の交差点という点でも、これ以上の立地はないと考えました。それに駅前ですから便利ですね。

──続いて、シンガポール店オープンで始まった「ANY1 CHOCO」の展望をお聞かせください。

今回、「ANY1 CHOCO」は、まず旗艦店の開店にあたり、ハイドロパウテック・シンガポール(HPS)という現地法人を立ち上げまして、ここシンガポールで事業を始める形になりました。ただ、先ほど申し上げた通り、シンガポールでお店をやることだけが目的ではありません。広く誰でも安心して食べてもらう、しかも美味しいものを提供するため、世界各地に広めていく必要があると思っています。次の出店先を早速考えています。
中小企業としては人材の確保も考えていく必要がありますから、まずアジアで展開することになると思います。次に多民族という視点で、アジアを軸にアメリカにも展開していきたい。また、「ANY1 CHOCO」はイスラム教徒の方々にも食べていただける仕様ですので、中東も候補にあがります。

──アジアを中心に世界中に広がっていくイメージですね。様々な国に今後展開していく中で、商品などに具体的なイメージはありますか。

重要なのは、その土地のソウルフードを積極的に使っていくことです。例えばANY1 CHOCO・ミドルイーストであれば、中東のデーツ(ナツメヤシ)などを積極的に利用するなど、地域の素材を積極的に使った、誰が食べても美味しいものを提供したいです。それが地域におけるリスペクトだと考えます。

──それでは、今回、ANY1 CHOCOシンガポールの現地法人として立ち上げた、ハイドロパウテック・シンガポール(HPS)の展望についても教えてください。

ハイドロパウテック・シンガポール(HPS)では、まず、このシンガポール店を通じ、多民族対応の美味しさを提供したいと考えています。シンガポールには中国系、マレーシア系、インド系、南インドの方などが多くお住まいです。それぞれに合う地域の素材、スペシャルな素材を探し、それを使ったチョコレートを提供していきます。そして次に、「なぜ、“ANY1 CHOCO”は美味しいのか?」「どんな素材を使って美味しいものを作っているか?」「チョコレートを作るには技術もさることながら、原料も重要である」という話を伝えていきたいと考えています。そして、この独自技術や加工原料を事業に使いたいというASEANの企業とのBtoB業務へと展開し、世界各国の実情に沿った加水分解物の販売に注力していきたいと思います。「ANY1 CHOCO」で使用している当社のチョコレート原料の固形物やパウダーを利用していただける企業や店舗は、世界にたくさんあると思います。

──それはつまり、商社のように「ANY1 CHOCO」を通じて、マーケティング的な部分や開発も担い、技術協力しながら原料を流通させていくということでしょうか。

はい。商社的にトレーディングの拠点として便利ということも、ここシンガポールを選んだ理由の一つです。シンガポールは物流の環境が非常に整っており、例えばチャンギ空港は24時間空港ですし、シンガポール港は世界中の船が通る海の要所です。ここに在庫と技術を置いておけば、世界への展開が容易になります。ハイドロパウテック・シンガポール(HPS)のBtoB、つまり企業から企業への事業展開には非常に重要なポイントです。

──最後に…改めて、「ANY1 CHOCO」をスタートした今の意気込みなどをお願いします。

昔、私は前職の素材製造販売の仕事で、2005年から2011年までシンガポールに住んでいたのですが、今回のプロジェクトで、当時ASEANやインドなど様々な国に行った経験が、一気に蘇ってきました。なんだか30代に戻ったような気分でして、当時のように様々な国で様々なビジネスを展開していきたいという野望が抑えきれないほど湧いてきています。
まずこれから10年、全力で打ち込みたいと考えております。10年後には今の若い方々が、自分の思うようなビジネスができるような土壌づくりを行いたい。
今の日本では、30代半ばから40代のそれなりに経験を積んだ人たちが経験を伸ばし切る土壌がないと言わざるを得ません。 まずは日本ハイドロパウテックやハイドロパウテック・シンガポール(HPS)を育て、さらには世界のどこかに新たに設立する拠点が、そういった新しい世代の方々が自分のビジネスを自由に展開できる教育の場になっていければ、非常に嬉しいです。