他分野への応用 CASE①「カカオハスクのアップサイクル」

2022年12月、日本ハイドロパウテック株式会社は株式会社ロッテと「チョコレート領域を中心とした技術革新とアップサイクル等を通じた、新たな価値創出、社会課題解決」を目指し、資本業務提携契約を締結しました。その挑戦の一つとしてすすめたのが、チョコレートの副産物「カカオハスク」を陶磁器に使うという試みです。
今回、ロッテ執行役員の芦谷浩明様とともに当社代表取締役熊澤が、陶磁器タイルの製作をお願いした愛媛県砥部町の「大西陶芸」を訪問。窯の見学ののち、試作品を見せてもらいながら、芦谷様と大西陶芸代表の大西先様にお話をうかがいました。


株式会社ロッテ
×
大西陶芸
×
日本ハイドロパウテック株式会社


熊澤:現在、日本ハイドロパウテックでは、お菓子メーカーであるロッテ様とともに、チョコレートの副産物であるカカオハスクのアップサイクルに取り組んでいます。今まで捨てられていたものに、いかに付加価値を与えて世の中に役に立つ形でリターンしていくかという新たなプロジェクトです。まず、芦谷様の方から、そもそもカカオハスクとはどういうものか、教えていただけますか。

芦谷様:カカオハスクは、カカオの種皮のことです。チョコレートづくりでは、カカオ豆を焙煎、粉砕し、チョコレートに使用するカカオニブと利用できないカカオハスクに分けます。ロッテでは、大量のチョコレートを作るため、カカオハスクも年間数百トン出ています。カカオハスクはこれまで長い期間、なかなか思い通りに活用できていませんでした。

熊澤:ものすごい量ですね。日本で一二を争うチョコレートメーカーですから、大量に出るのは、ある意味、仕方のないことだとも思います。ちなみに今までは、どのように処分されていたのでしょう。

砥部焼の窯元、大西陶芸にて
芦谷氏(左)、大西氏(中央)、熊澤(右)

芦谷様:農業用肥料や飼料などとして、ほとんど利益も出ないような状態で、いわば処理しています。今回、日本ハイドロパウテックさんとタッグを組むことでカカオハスクに新たな役割を与え、付加価値をつけ、世の中の人たちに驚きや感動を与える、そういうきっかけになったら、と考えています。

熊澤:そうですね。当社の加水分解技術を使えば、カカオハスクを食用に利用することも可能になるのですが、さすがに数百トンですと使いきれる量ではありません。そこで従来なかったアップサイクルの方法を探る…という取り組みの一つとして今回トライしたのが焼き物、陶磁器に再利用するという方法です。

芦谷様:カカオハスクから陶磁器って、本当にびっくりしますね。カカオハスクって、そもそも土から生えた木に実がついて、種子になって、その皮の部分ですから、熊澤さんが以前おっしゃっていた「土に還す」いうコンセプトに近しいものを感じます。

熊澤:はい…土から出てきたものを土に還すのも大事ですし、土に還すなら、なるべく長持ちしてほしいと思います。すぐに壊れてゴミになったらもったいないですよね。
そこで、今回できるだけ丈夫な陶磁器を作っていただきたいということもあり、ご協力いただいたのが、愛媛県の砥部焼の窯元、大西陶芸様です。今日おじゃましている愛媛県砥部町は、伝統的なお茶碗「くらわんか碗」など美しい器で知られる、有名な陶磁器の里です。
事前にカカオハスクの加水分解物…つまりカカオハスクを当社の技術で非常に細かいパウダー状に分解したものを大西陶芸様にお送りし、陶磁器の釉薬(ゆうやく)に混ぜて使っていただきました。そもそも釉薬とはどのようなものなのか、続いて大西様から教えていただけますか?

大西様:釉薬というのはですね、陶磁器の表面を覆っている、つやつやしたガラス質の部分のことです。素焼きの段階で陶磁器の表面に塗る薬品のことで、塗って焼くとガラス質に変わり、陶磁器を丈夫にして、水分がしみこむのを防いでくれます。

熊澤:釉薬に含まれている成分によって、色や質感も変わってくるんですよね。今回、カカオハスクの加水分解物を使ってみた感想をお聞かせください。

大西様:はい。そもそも僕もカカオハスク自体、初めて見るもので、全く性質がわからなかったので、まず窯業試験場という公的な機関にお願いして、成分分析をしてもらいました。そのうえで、実際に釉薬に混ぜてみたのですが、有機物なので、焼くとなくなってしまいます。
そこで、実際カカオハスクが焼いてどのくらい残るかをしっかり見極めるというところから始めました。第一段階として、そのまま生のパウダー状のカカオハスクを釉薬に混ぜながら使ってみたのですが、想像以上に油分が多く、生地に吸い込まれてしまうようで、うまくいかなかった。そこで、一度カカオハスクを焼いてみて、灰にして釉薬に混ぜ込んでみたんです。すると、とてもいい雰囲気に焼きあがりました。

産業技術研究所窯業技術センター

熊澤:まるでダークチョコレートのようなブラウンで、非常にいい色ですね。

大西様:はい。今回は時間的な制約もあったので、当社でもともと持っている釉薬に混ぜるという形になりましたが、もっと消費量を上げていくのであれば、このカカオハスクで1回焼いたデータをベースに釉薬を作っていくこともできます。応用すれば、また新たな雰囲気に焼き上がるでしょうし、かなり可能性があると思いますね。

熊澤:今回焼いていただいたのは器ではなく、タイルです。日本ハイドロパウテックが、シンガポールに作っている「ANY1 CHOCO(エニワンチョコ)」という店舗に使うタイルの釉薬として使っていただいたのですが、焼いていただいたタイルのサンプルにOFとRFと書いてある2タイプがあります。一体これは何を意味するんでしょうか。

OF、RFと書かれたサンプルタイル

大西様:陶芸には焼き方が2種類ありまして、OFは酸化焼成、RFは還元焼成の略です。酸化焼成は、窯の中に酸素をしっかり送り込みながら行う焼成で、そのままの色が出ます。対して、還元焼成は酸素が少ない状態で焼きますので、釉薬の酸素なども土や釉薬から奪うことになる。それで物質の色合いが変わっていくんですね。ただ、OF酸化焼成の場合、生地が黄色くなってしまうので、砥部焼は基本的に還元焼成、RFが一般的になります。今回は実験的な意味も含め、両方でやってみました。
どちらも、いただいたカカオハスクをそのまま30パーセント程度、釉薬に混ぜて、酸化焼成と還元焼成という両方のやり方で焼いています。それにさらに鉄を6パーセント、10パーセント、12パーセント混ぜ込むという形で実験しました。酸化焼成、還元焼成それぞれ面白い色に焼きあがりました。

熊澤:キレイですね。私の知っている限りでは、いわゆる飴釉という釉薬が、確か鉄を用いて焼いて発色させるものと聞いています。この酸化焼成のタイルなんか、なんともいえない不思議な色に出来上がっています。鉄だけではこんな色にはならなそうな気がしますが、やはりカカオハスクによる影響なのでしょうか?

大西様:おそらく釉薬の中で鉄と反応したりして、また違った今までにないような風合いになったと思いますね。

熊澤:今回、実際に店舗に使うタイルも、いわゆる吹付けではなく手で塗ったとお聞きしました。手仕事ならではの独特のムラ感が、非常に味わい深いです。釉薬の掛けやすさという点で、カカオハスクの分解物と混ぜた釉薬はいかがでしたか?

大西様:想像以上に使いやすくて、最終的にはある程度量産に向けていけそうな、ちょうどいい雰囲気になりました。

熊澤:タイル以外の用途もあるかもしれませんね。例えばチョコレートを入れるケースとか。芦谷様はいかがでしょう。

芦谷様:そうですね。チョコレートケースもいいですし、何かお菓子ケースのような、おやつを入れる箱にしてもよさそうです。実物の焼き上がりのこの美しさを見て、例えば将来、当社のECサイトで販売するなど、いろんな可能性が感じられました。

大西様:いいですね。このカカオハスクを使った釉薬は、本当に柔らかい感じになりました。工夫によっては、もっとグラデーションが出ると思いますし、より美しい表情にできそうです。

熊澤:このタイルが実際に当社のシンガポールの店舗に貼られると考えると、非常に楽しみです。チョコレートやお菓子の業界で、こういう形のアップサイクルは珍しいんじゃないかと思います。

芦谷様:確かに。紙にハスクを使った例はありましたが、ここまで芸術的なアップサイクルは初めてだと思います。

熊澤:今回はカカオハスクという素材で大西様にお願いしていますが、他の食品の副産物でももっと実験してみたいですね。ロッテ様で何か使えそうなものは考えられますか?

芦谷様:今ちょうど、ここ四国でカリンが栽培されており、のど飴の主原料である 国産カリンエキスの一部を担っています。ただ、カリンってエキスを抽出した後は、使い道がないんです。カリンは様々な成分も含んでいるでしょうし、油は少ないので、陶磁器にも使えるかもしれませんね。

熊澤:それはいいですね。砥部焼も四国代表ですし、メイドinオール四国な、四国らしい何かができそうです。より地域に根差した取り組みができたら素晴らしいですね。

大西様:はい。砥部焼は地元の陶石を50%以上使っています。さらに愛媛県の名産である柑橘、カリンも使えるなら、ぜひ挑戦してみたいです。

熊澤:シンガポールの店舗では、単純に日本製品を紹介するだけでなく、こういう日本人ならではの「もったいない精神」とも言えるアップサイクルの事例も紹介していきたいと考えております。また、我々も新潟県の会社ですので、いわゆる地方創生につながる取り組み、東京一極集中ではない発信が必要だと思っています。
陶磁器の魅力って、半永久的に使えるということだと思うんです。アップサイクルしてもすぐに捨てられてしまう物だと、もったいないなと思います。窯業でアップサイクルすれば無機物と有機物が組み合わさり、ずっと使える物が生まれるというのが非常に面白い。ぜひこれを機会にロッテ様、砥部焼の大西陶芸様、そして我々という三者で様々な取り組みに挑戦していきたいと思います。

芦谷様:そうですね。よろしくお願いします。

大西様:よろしくお願いします。

熊澤:本日はどうもありがとうございました。

対談後、笑顔で一枚
ANY1 CHOCO シンガポール店(Photo: ambiguous Yusuke Hattori)

(聞き手:NHP 熊澤)


芦谷浩明様/ロッテ執行役員
大西先様/大西陶芸代表
熊澤正純/日本ハイドロパウテック株式会社代表取締役 


株式会社ロッテ
https://www.lotte.co.jp/(外部サイト)
菓子、アイスクリーム、健康食品、雑貨の製造および販売。昭和23年創業。

大西陶芸
https://www.ohnishitougei.jp/(外部リンク)
四国愛媛県、砥部焼の窯元。昭和45年創業。